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「まだ戦争は終わっていない」と感じさせられたツアー(丸川拓己)
「Happy Birthday,Takumi」
初めての海外、初めてのフィリピンで、英語さえおぼつかない私に、ピアノを演奏しながらそう語りかけてくれたAlexさんのことを、私は一生忘れないだろう。


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私が参加したのは、2018年2月6日〜2月11日に行われたフィリピンツアーだ。地理歴史の教員免許を取得するにあたって、色々と見聞を広めてみたいという単純な理由から、第二次世界大戦に関する活動を行っている団体をネット検索して、BFPに連絡を取ったのがきっかけだった。他の参加者の方々のように長く戦争に関する研究や活動をしていたわけではなく、英語もほとんど話せないような私が、このツアーで何を感じ、何を考えたのかを、微力ながら書こうと思う。
私のこのレポートが、これからこのツアーや活動に参加しようか迷っている私と同じような人に伝わるような内容になっていれば幸いである。

私達がまずお会いしたのは、リパという街に住んでいるAlexさんという方であった。Alexさんは、戦争時お父様を戦争で亡くしている。Alexさんのお父様は、日本軍によって市民が利用していた井戸で虐殺されたのだ。お会いする前にその話を直子さんから事前に聞いていたため、私はお会いするのが少し不安だった。
しかし、実際にお会いすると、Alexさんは本当にうれしそうに私達を出迎えてくれた。英語が堪能で、また大変知的な方で、英語が全く話せない私にもわかりやすいように丁寧に当時のことを話していただいた。


「これとってもおいしいんだよ」と勧めてくれたココナッツを固めたお菓子を私がガツガツ食べていると、「たくさんあるからもっと食べなさい」とまるでおじいちゃんのようにニコニコしてくれた。
そんなAlexさんとともに、実際にAlexさんのお父様が日本軍によって虐殺された現場に向かった。そこは民家もほどちかい林の中で、まだ井戸そのものも残っていた。
そこに着いたときの、Alexさんの顔を、私は今でも鮮明に覚えている。言葉ではうまく表現できない、悲しみに満ちた顔だった。


その顔を見たときに、私は実感をもって感じたことがある。
それは「まだ戦争は終わっていない」ということだ。
人は自分事ではない過去は簡単に忘れることが出来るし、そういう生き物だ。いっぽうで、当事者はその過去を一生背負って生きていく。私は日本史も世界史も得意だったし、人よりは過去と向き合うことのできる人間だと思っていた。しかし、いざ当事者の方を目の前にして、私は自分が「戦争はもう終わっていたもの」だといつの間にか前提していたのだということに気づかされたのだ。

もし自分の父親が目の前で連行されて、虐殺されたとしたら?多感な少年時代にそれを経験していたとしたら?
Alexさんはずっと、当事者として、そんな過酷で残酷な記憶を背負って生きてきたのだということが、その悲しみに満ちた顔に表れていた。そのことに気づいたとき、私は何と声をかければよいのか、わからなくなってしまった。そんな悩みを抱えながら、私のツアーは始まったのである。


しかし、そんな私に、Alexさんはもう一度伺った際に誕生日パーティーを行ってくれた。「2月22日で22歳になるんです」と言うと「それはすごいね」とまたにこやかに話しかけてくれるAlexさんの人柄に心から感服するとともに、私はいったい何を返すことが出来るだろうか、と考えるようになった。

翌日には、BrianさんとChitoさんと一緒に、Buan教会という、日本軍が戦時にフィリピンの市民の方々を集めて爆破事件を起こしたくさんの方々を虐殺した現場に向かった。世界史の教師だというBrianさんは、当事どのようなことが起こっていたのかということや、「通行証を渡す」という嘘をついて市民を集めた日本軍の卑劣な行為など、様々なことを説明していただいた。また、Chitoさんには実際にその爆破事件でなくなった方々を埋葬する墓地に案内していただいた。しかし、爆破事件で亡くなった方々のための石碑の周りは草木が生い茂り、荒れ果てた状態となっていた。Chitoさんはとても悲しそうな顔で、「前はもっときれいだったんだが」と言っていた。徐々に記憶が薄れていくことを象徴するかのような石碑は、悲しく佇んでいた。


また、この事件の生き残りの方にもお会いした。Cornelioさんは御年97歳というご高齢ながら、私の誕生日ソングを演奏して下さった。一方で、ご自身が日本軍に過酷な目にあわされたにもかかわらず、日本から来た私に気さくに接してくれることに、改めて驚きを感じた。


また、マニラ市街戦の追悼式典にも、BFPメンバーとして参加させていただいた。周りを見渡すと、近隣の大学の学生も多くいて、中国から来た大学生の人とおぼつかない英語で会話したり、式典の参加団体としてBFPが名前を呼ばれたときに直子さんと一緒に前に出たりした。しかし、本来このような形で式典があるのであれば、日本の大使館の人間の一人でもいるだろうと思っていたのだが、日本人はほとんどおらず、また直子さんの話では参加者も去年に比べて格段に減ったとのことだった。ここでも、徐々に記憶が風化しつつあり、特に日本人はこうしたBFPのような団体がなければ、つながりの糸は絶ち切れてしまうだろうと感じた。


他にも、ユニカセという日本人の方が経営するフィリピンの貧しい子どもを雇って社会復帰への手助けを行っているレストランに伺ったり、加藤千登勢さんのお宅に伺っておでんを食べたりしたのだが、主なフィリピンの戦争体験者の方々との交流は以上の通りである。

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それでは、このレポートの締めとして、このツアーで私なりに考えたことをまとめたい。
このツアーを通じて、フィリピンの方々にお会いすると必ず私に聞かれることがあった。それは、
「今、日本は大丈夫か?北朝鮮情勢が怪しくなってきているから、とても心配している」
ということだった。Alexさんも、日本の情勢が危うくなっていることを私にしきりに話してくれた。最初、なぜ遠く離れている日本のことをそこまで心配してくれるのだろうと思っていたが、今回のツアーを通して、考えたことがある。

私がお会いしたすべての方々は、戦争の「痛み」を知っていた。
戦争というものが、大切なものをどれだけ残酷に奪い、加害者も被害者も、関わる全ての人々に一生消えない傷を残すものであるということ。そして、もう二度と戦争を「繰り返してはいけない」こと。
この痛みを抱え、それでも前に進んでいる方々だからこそ、もう一度悲劇を繰り返そうとしている日本の情勢を心配してくれているのだろう。

私は、日本に住んで、学校教育を受けて、いま子どもたちに地理歴史を教えようとしている。私には、これらは聞きなれた、ありふれた言葉だ。「繰り返さない」「戦争反対」は、それ自体が使い古された道具のようになって、ただ漂っている。しかし、私たちは本当に、実感を持ってこの言葉を発しているのだろうか。
フィリピンの方々にお会いして、「戦争がいかに残酷で、繰り返してはならないことか」ということを、改めて実感を持って感じた。それは、今までのような「被害者」としてではなく、私達の祖父母の世代が「加害者」として残酷な行いをしながらなお、現代に生きる私達日本人に当時のことを伝えてくれる方々にお会いできたからこそなのだろう。

第二次世界大戦から73年の月日が流れ、戦争を体験した当事者の方々も年々減ってきている。その時に、私達は本当の意味で「戦争は繰り返してはいけない」と言えるのだろうか。

戦争世代のちょうど孫の世代にあたる私達には、当時の出来事を語り継ぎ、「痛み」を受け継いで未来の子どもたちにつないでいく義務がある。私はこのツアーを通じて改めてそう感じたし、こうした考えを持つ方々にも実際にフィリピンに行って、自分の考え方を問いなおす契機にしていただけたらと心から思う。

最後に、初めての海外、初めてのフィリピンで戸惑う中、気さくに色々な話をしてくださったえりこさん、親子に間違えられたりと色々とお世話になったかずやさん、フィリピンのことを色々教えてくれた智美さん、映画上映の際に色々と説明してくださった由歌子さん、そしてこのツアーに誘ってくださった直子さんと、フィリピンでお世話になったすべての方々に、改めて感謝申し上げます。

このレポートが、私と同世代の大学生の方や、同じように戦争に向き合いたいと考えている方々に参考になるようなものになっていれば幸いです。
| フィリピン訪問レポート | 14:21 | comments(0) | - | pookmark |
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